その後、今まで迷っていたのかと思うくらいすぐに、森を抜ける事ができ、

半日と掛からずに彼らは街に着いた。

彼らは街に着くとすぐに宿を探し始めた。

 

 

宿に入ってしばらくした後、レックスが

「ん?今日は出掛けないのか?」

と声を掛けた。

「まあ、さっき貰ったし・・・。」

「そうか・・・。」

「それに、ちょっと話があるし・・・。」

「ん?話?」

「うん。今日は出掛けるようとか無いなら、聞いて欲しいんだけど・・・。駄目かな?」

「別に用なんかないし、構わないぜ。しかし、随分と重い調子だな。」

「まあね。私にとってはちょっと重要な話だから・・・。」

「成る程ね。」

レイナはうつむいて話し始めた。

「私ね、吸血族なのは産まれつきなの。だから、もう十年以上も人間の血を吸ってきたわ。

相手が望んでいるならば、吸血族にすることもしてきた・・・。

でも、人間には嫌われたくなかった・・・。

だけど、吸血族ってだけで嫌われる・・・。

あんなことしてるんだから、嫌うなって方が無理かもしれないけど・・・。

だから、吸血族って事がばれないように、カラーコンタクトとかして、ばれないようにしてきた・・・。」

そう言って、彼女はカラーコンタクトを外した。

その下から、妖しくそして綺麗な赤い瞳が現れた。

「でも、やっぱり血を吸う度に思うの。ううん、正確にはその後。

相手の恐怖の表情を見た時、やっぱり、私は嫌われ者なんだって。

吸血族だから当然だけど、こんな事が好きな私は嫌われ者なんだって。

相手にしてみれば、死ぬかもしれない瀬戸際に立たされたんだから、

恐怖しても無理もないけど・・・。」

そこで彼女はレックスに向き直った。その顔には涙が頬を伝わっていた。

「でも、貴方はさっき、私が血を吸っても、私を恐がったりせず、

優しい言葉まで掛けてくれた・・・。本当に嬉しかった。

また、嫌われたと思ってたから・・・。

・・・ありがとう。」

段々と小声になっていったが、最後の言葉は彼にはしっかりと聞こえた。

 

 

 

レックスは口を開いた。

「俺はそんな、お礼を言われるような人間じゃないよ。

もし、夜中に歩いてていきなり吸血されたら、恐怖してたかもしれないしな・・・。

あの時は、俺から言い出したことだし、御前を信頼してたからな。

だから、恐くも無かったし、ましてや嫌うなんて。

仲間を嫌うようになったら終わりさ。

それに、死にそうな人間がいて、しかも、それがずっと旅を共にしてきた奴なんだから、

助けられるならどんな方法でも助けたさ。」

「ありがとう、本当に・・・。」

「いいってさ。しかし、そうだよな〜。

改めて思ったけど、吸血族つっても同じ人間なのに、なんで他の種族はそんなに恐がるのかな〜。

血を吸うたって何時も殺すわけじゃないし、

むしろ同じ種族の方が殺しあったりしてるってのに・・・。おかしな話だな・・・。」

「うん、私もそう思ってる。」

「まあ、いきなり血を吸われたりしたら、驚いたりするのは無理ないけど・・・。

単に吸血族ってだけど恐がるのはおかしいよな〜。」

そこで、気付いたようにレックスは彼女に質問した。

「ん、そういえば、レイナ、いつも街で血を吸わせてもらってる時、

どうやって声掛けてるの?」

「え?いや、大体はいきなり襲ってる・・・。」

セレナは驚き、そして小声で答えた。

「そりゃ、いくら吸血族に好意持ってても驚かれるよ・・・。」

「だって、吸血させて、って言った所で、誰も吸わせてくれないじゃない。

吸血族ってだけで嫌われてるんだから・・・。

まあ、殺しはしないから、とか、最後にお礼とかは言ってるけど・・・。」

「そうか、ならいいんだ。

何も言わずにいきなり襲ってたんだったら、って考えたもんだから。」

「その辺、一応は考えてるわよ。」

 

 

 

少しの間、外の風の音だけが聞こえた。

しかし、すぐにレックスがセレナに呼びかけた

「なあ、レイナ。」

「何?」

「一つの提案なんだが、そのカラーコンタクト外したらどうだ。」

「でも、そしたら・・・。」

その言葉を遮るように彼は続けた。

「いや、確かに、街の人からは恐れられたりするかもしれない。

ただ、このままだと、結局逃げてるだけなんじゃないかな〜って思ってさ。」

「逃げる?」

レイナは意味が分からないといった感じだ。

「ああ。このままだと他の種族の人間を、言い方は悪いけど、騙して生活してるわけだろ。

でも、それじゃ逃げてるだけじゃないかなって。

普通に生活できても、真に解決したことにはならないんじゃないかなって。

本当にわだかまりを無くしたいなら、本当の姿ってのをだした方がいいと思うんだ。

そうやって、立ち向かうってのも言い方おかしいけど、そんな風にした方がいいと思うんだ。」

「成る程ね〜。分かったわ。明日から外してみるわ。」

「辛くなったら、また着ければいいからさ。

ただ、俺は御前の目が赤くても別に恐れたりしない。

もちろん、御前以外でもだ。」

強い調子でレイナに勇気付けるようにして言った。

「ありがとう。貴方はやっぱり素晴らしい人だわ。」

「はは、それはどうかな?」

少々苦笑交じりにレックスは答えた。

「少なくとも、私にとってはそうよ。命の恩人でもあるしね。」

レックスは照れくさそうに、頭を掻きながら、苦笑していた。