翌日、街はざわめいていた。
紅い目をした少女が青年と歩いていたからだ。
子供は家に入れさせられ、
妙に殺気だってる者も居た。
彼等が店で何かを購入した時の、
その品物を持ってくる店員の怯え方など尋常ではなかった。
そういうのを見る度に少女は悲しんでいた・・・。
また、その度に青年は少女を元気付けたり、
周りに明るく振舞っていたりしていた。
「やっぱり、皆恐がってたね。いきなり殺そうとした人もいたし・・・。」
街を出る時、レイナが話し掛けた。
その目は包帯の巻かれた辺りの左肩に向けられていた。先程切られたものだ。
「そうだな。まさか、あんな事になるとは思ってなかったが・・・。
まあ、あれだけ強く言えば、その後は大丈夫だろう。」
街を出る少し前のことである。
「――!」
レイナが後ろで何かが風を切る音に気付き、右にステップした。
だが、気付くのが遅すぎた。
それは、彼女の左の肩口を捕らえた。
「――っ!!!」
痛みに顔が歪む。
振り下ろした男は、チッっと舌打ちした。
レイナの肩を捕らえた斧は男の手によって引き抜かれた。
辺りに鮮血が飛び散る。
彼女は右手で左肩を抑え、立っているだけでも、辛そうだった。
斧を引き抜いた男は今度こそはといった感じで、再び斧を振り上げた。
そこにレックスがロングソードを引き抜き、
「やめろ!」
と怒鳴った。その切先は男に向けられている。
「その斧を振り下げた瞬間、貴様の首は飛ぶと思えよ。」
「おいおい、こいつを殺すことは御前のためにもなるんだぜ。」
「俺のため?」
怪訝そうに聞き返した。
「御前、どうせこいつに脅されて、一緒にいるんだろ?
その首筋の傷跡、脅された時に付けられたんだろ?
俺が自由にしてやるって言ってるんだよ。」
「別に脅されて一緒に居るわけじゃない。
酒場で意気投合したから、一緒に居るんだ。
この傷跡はこの前、死にそうになったあいつを助けたときに付いたものだ。」
「御前、自分から血を分け与えたのかよ。」
「人を助けるという当然の行為をしたまでだ。」
「ふん、変わった奴め。でもな、吸血族なんてのは、この世界には要らないんだよ!
せめてこの街からは消し去ってくれる!」
そう言って、男は斧を振り下げようとした。
だが、レックスは間合いをさらに詰め、その切先を男の首筋に着けた。
多少の赤い血がロングソードの上を伝っている。
「何で、要らないなんて言い切れるんだ・・・!」
「・・・何でって・・・血を吸って人間殺すだろうが・・・。」
男は剣を首筋にあてられているためか、声がうわずっていた。
「じゃあ聞くが、今までの殺人事件や傷害事件でどれだけ吸血族が関わってきた?
今までの戦争でどれだけ、吸血族が関わってきた?ほとんど、他種族の人間が起こしたもんだろうが!
確かに殺すこともあるかもしれない・・・。血を吸うのだから、傷害事件もあるさ・・・。
だけどそれは他種族だって言えた義理じゃないはずだ!
本当の意味で分かってやらず、自分達の事は棚上げして、レッテル貼りするってのはおかしいんじゃないのか!。」
レックスは怒りに満ちた口調で言葉を吐いた。
男は黙っていた・・・いや、正確には口をわなわなさせていた。
何か反論したいのであろう。しかし何の反論の余地も無いのだ。
結局男は斧を握っていた手を力なく落とし、さらには握っていた斧をも落とした。
その音が静まり返っていた周辺へと響く。
レックスはその音を聞き、戦意が無いのを確認すると、剣を鞘に収めた。
「レイナ、大丈夫か?」
そして直ぐにレイナに優しく声を掛けた。
「・・・うん、何とかね・・・。ヒールウィンドウ掛け続けてたから。」
「ちょっと傷口見せてみろ。」
そう言って傷口に当てている手をそっと外した。
「・・・思ったより深くには行ってないようだが、傷口は開いたままだな・・・。
とりあえず、傷口を治療してから魔法を掛けた方が効率がいいだろう。
さっきの宿まで戻ろう。歩ける・・・わけないな・・・。」
傷の状態を察してそういったが、レイナは「大丈夫。」と言って立ち上がろうとした。
だがその途中で、「痛っ・・・!」と言って再びしゃがみ込んだ。
「・・・やっぱ無理みたい・・・。」
「無理はしない方がいい。傷口がこれ以上開いたら厄介だしな・・・。
しかし、担架か何かがないと安定しないしな・・・。」
レックスは周りを見渡し、そして呼び掛ける。
「誰か担架か何か持ってきてくれないか?」
その声は静まり返っていた街によく響いた。
人々は互いに顔を見合わせていたが、やがて友達同士らしき二人の少女が
「私達が取ってきます。」と、声を掛けてとりに走っていった。
やがて彼女達が担架を持って戻ってきた。
レイナを担架に乗せながら、少女の一人が話し始めた。
「さっきの言葉、凄く感動しました。そうですよね。周りから伝えられた、
先入観やイメージなんかにとらわれてはいけないですよね。
私達、看護婦志望なんです。少しはお手伝い出来ると思うので、何か手伝わせてください。」
「ありがとう、助かるよ。」
「・・・ありがとう。」
レックスが御礼を言う。レイナも続いて言うが、動いたことにより傷口が再び開き苦しげな声に変っていた。
診療所に着いた時、医者は驚いていた。
宿ではなく、診療所へと連れて行ったのは、二人の少女のはからいだ。
その方が、より良い治療が出来ると言うことである。しかし・・・
「き・・・吸血族なんかの治療が出来るか!」
医者はレイナの瞳を見た瞬間、断固として拒絶した。
「御前ら、こんな奴の為に担架を持っていくんじゃない!
他に急患が居たらどうするんだ!」
「この人だって急患です!」「そうです!」
彼女達が口々に答える。
「何処が急患だ!人の血を飲んで生きるような化物だぞ!」
この言葉にレックスが怒鳴ろうと、一歩前に出る・・・が、そこを少女の一人が制した。
「私達に言わせて」そう、少女は囁いた。
「何で化物なんて言い切れるんですか!?血を飲むからですか!?
そうやって、人を傷付けるからですか!?だったら、私達も化物です!」
「そうです!先生は医者という立場です。だからと言って、人を傷付けないと言い切れるのですか?
それに、先生だって知ってるでしょう?この街で起きる傷害事件や殺害事件の犯人は、
大抵人間族だって事くらい。」
医者はしばらく黙っていた。辺りには街の雑音のみが響いていた。
「おい、早く診察台に移せ。」
医者がそう言った瞬間、少女達の顔が輝いた。
急いでレイナを診察台に移すと、医者は傷口を診て、色々と少女達に指示を出していた。
「・・・さっきは悪かった。彼女達の言う通りだよ。私はあまりにも先入観にとらわれていたようだ・・・。」
医者はそう言い、謝った。
「有難う・・・分かってくれて・・・。」
レイナはそう答えると紅い瞳を閉じ、体の力を抜いた。
「やっぱり、カラーコンタクト付け直すか?」
それから二日後のことである。診療所で休ませて貰った後、再び二人は旅に出ることにした。
「いえ、いいわ。まだ、嫌う人も居るだろうけど、説明すれば分かってくれそうだし、
何時までも逃げてるわけには行かないしね。」
「そうだな。」
「それより今度は道、間違えないでよ。
今度間違えたら・・・どうなるか分かってるよね〜。」
そう言って、レイナは意地悪い笑みを見せる。
「はは、大丈夫、大丈夫。心配するなって。」
レックスは笑いながら答え、二人は町を後にした。
後書き
何故か前編の辺りで終わるつもりだった小説が、どんどん構想が広がっていき、
三部構成になってしまいました。
しかも、後編更新遅くてすいません(汗
でも、言葉は変でも割と言いたいことは言えたかな〜と思ってます。
やっぱり、人種差別みたいなのはいけないですよ。
それに、人が生きていく上で、少々他人が傷つくことはある程度、仕方無いことなんじゃないかなと思います。
価値観などが人それぞれ違うわけですから、人間関係なんて摩擦だらけです。
若い頃(管理人16歳ですが<汗)なら、誰しも取っ組み合いの喧嘩くらい、一回は経験してるでしょう。
だからと言って傷付けて構わないという訳ではないです。
出来るならそんな事無い方がいいわけですし、
仕方無いと思える状況で傷付けてしまったなら、謝るという行為をした上で、許せるんじゃないかな〜って思います。
また、度が過ぎる――理由の無い又は故意の殺人やら戦争やらになるともってのほかです!
そういう事をしてしまう人が『化物』なんじゃないかと思います。
う〜ん、やっぱりあまり上手くいえない・・・
後書き含めて、文章変ですいません(滝汗
(後々、このことはテキストにまとめてみたいな〜と思います。)
9月10日水曜日後書き改定
9月18日木曜日後書き改定