二人の出会いは、珍しいものではなかった。
単に、酒場での仲間募集で知り合った仲だ。
ただ、一つ変わった事は――
「それじゃ、ここからは単独行動ね」
「分かったよ。」
そう、少々単独行動が多いのだ。
大抵、町に着いて宿を取ったら、単独行動となるのだ・・・。
普通なら、ある程度は共に行動することの方が多い。
少なくとも、夜までには帰ってくるだろう。
しかし・・・
「いつも通り遅いな・・・、レイナの奴・・・。まあ、いいか。」
「ねえ、今度こそこっちで合ってるの?」
黒い瞳と紅いロングヘアーの少女が問う。
「合ってると思うんだが・・・。」
蒼い瞳と刈り上げた銀髪の青年が地図を片手に答えた。
場所は山岳地帯。しかもその峠の森の中・・・だと思われるのだが――
完全に迷ってしまった今となっては、峠にいるかどうかすら分からない。
「もう、森に入ってからでも四日よ・・・。
次の町につくには二日あれば十分とか言ってなかった?
――ちょっと、地図見せて」
と言って、少女が青年の手から地図を取ったが、しばらくして、
「駄目だわ、全然分からないわ。」
「レイナ、地図を見てる場合じゃないようだ。
どうやら客人がお出ましらしい。」
「そうみたいね。」
周りには人型の獣であるゴブリンが様々な武器を構えていた。
「全員で八匹か。行くわよ、レックス!」
「おう!」
二人はお互い逆方向に駆け出していった。
レイナはフォチャードを、レックスはロングソードを振りかざし、
ゴブリンを引き裂いた。
辺り一帯に、ゴブリンの断末魔と緑色の血が広がる。
「こっちは片付いたぞ、そっちは――レ、レイナ!?」
彼女はフォチャードを地面に突き立て、
その柄を握り締めたまま、跪いていた。
レックスは慌てて駆け寄り、声を掛ける。
「大丈夫か?」
「大丈夫・・・。ちょっと眩暈がしただけよ。
敵は片付いてるでしょ?」
彼女が言うように、敵は胴を真っ二つにされたもの、首を狩られたもの・・・様々だった。
彼女に傷はない。
「ならいいんだが・・・。体調悪くなったら、早めに言えよ。」
「ええ、そうするわ。早いとこ、この森をぬけましょ。」
彼女は起き上がりながら、言った。
「こっちかな?」
レックスは相変わらず地図と睨み合いながら、呟いた。
その時、少し後方でバタっという音がした。
彼が振り向くと、そこにはセレナが倒れていた。
「お、おい」
慌てて、彼は駆け寄った・・・
しかし――
「――!!!」
いきなり、セレナは起き上がったかと思うと、レックスに襲い掛かり、押し倒したのである。
彼の肩に物凄い力が掛かる。表情は髪に隠れて、ハッキリとは伺えない。
そこに、彼は実に意外な言葉を掛けた。
「・・・死にそうなら、吸ってもいいぞ。」
「え・・・?」
「血、欲しいんだろ?吸血姫なんだから・・・。」
「・・・気付いてたの?」
苦しげな声である。
しかも、荒く息を吐いている。
「そりゃな。行く町、行く町で泊まった日に、いつもお前は夜になっても帰ってこなくて、
しかも、その日の翌日には吸血族騒動が起きてるんだからな。
その時点で気付いてたよ。確たる証拠はないがな。
でも、さっきからの症状。旅する者なら分かるよ。」
「・・・そうね。・・・貴方が言う・・・ように・・・私は吸血族よ・・・。
・・・そうとし・・・知ってて・・・よく殺さなかったわね・・・。
・・・嫌われ・・・てる・・・種族なのに。」
彼女は途切れ途切れに答えた。
「人を殺しちゃいなかったし、いつも、重症には全くならない程度だったらしいからな。
確たる証拠も無かったし・・・。」
その言葉を言い終わると、ほぼ同時に肩を掴む力が弱まった。
それを、もうかなり危機的状況なのでは、と勘違いした彼は慌てて声を掛ける。
「お、おい、大丈夫か?
死にそうなら、早く吸ってくれ。」
「まだ・・・大丈夫よ。
力を・・・抜いたのは・・・ちょっと・・・嬉しかった・・・からだから。」
と彼女はその勘違いの気付いて微笑みながら答えた。
ただ、微笑んだといっても、苦笑に近かった。
「でも・・・もう・・・30分・・・もたない・・・かも。
本当に・・・いいの・・・?」
「ああ。」
「それじゃ・・・ちょっと・・目・・・瞑って・・・。」
言われた通り彼は目を瞑った。
そして、彼女は彼の首筋に多少鋭くなった牙を突きたてた。
「ごめんね・・・。」
「いいってさ・・・。」
「歩くとかは別に良いんだけど、走るとか戦闘とかはちょっと控えてね・・・。」
「分かった。じゃあ、敵きたら宜しくな。」
「うん。こうなったのは、血を吸った私に責任があるわけだしね・・・。」
「だからいいってさ、そのことは。
仕方なかったんだから。気にするなよ。」
彼は優しく声を掛けた。
「それじゃ、行くか。」
「そうね、早くこの森を抜けましょう。」
彼らは再び森の出口を探し始めた。